田舎の風景

田舎に移住したいと思う前に知って欲しい“里山資本主義”の現実

田舎に移住したいと思う前に知って欲しい“里山資本主義”の現実

田舎の風景

先日、本屋に行くと藻谷浩介(著)『里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く』という本がレコメンドされていました。自分が実際に田舎に住んでいるので、田舎暮らしの本というのはあまり興味が無かったのですが、「里山資本主義」という田舎ならではの経済システムを切り口に書かれた本のようで気になったわけです。

311以降、原発や放射能の影響で、自分のまわりでも田舎に移住をした人がいますし、そういうこととは関係なく、東京の忙しい生活から田舎でののんびりとした暮らしに憧れて、地方の移住先に良さそうなところを探していたり、調べている人は結構います。そんな人たちに取って、「里山資本主義」は田舎暮らしをすることの1つのメリットといえるかもしれません。

里山資本主義とは

そもそも、里山資本主義とは何かということですが、この本の著者でもある地域エコノミストの藻谷浩介氏がNHKエコチャンネル「里山のチカラ ~21世紀の人と自然とライフスタイル~」でこのように説明しています。

里山には、代々の先祖が営々と育んできた、自然と共に生きるシステムがあります。そのルールを守っていると、いまの時代でも、水と食料と燃料、それに幾ばくかの現金収入がちゃんと手に入ります。新鮮な野菜に魚、おいしい水、火を囲む楽しい集まり、そして地域の強いきずな。
 都会であくせくサラリーマンをやっている人間よりも、里山暮らしの人間の方が、お金はないけど、はるかに豊かな生活を送っているということを、私は各地で実感しています。

つまり里山にはいまでも、人間が生きていくのに必要な、大切な資本があるのです。これはお金に換算できない、大切な価値です。そうした里山の資源をいかしていくことを、「里山資本主義」という言葉を使って伝えようとしたのが、NHK広島局がつくる「里山資本主義シリーズ」でした。シリーズは最終回を迎えましたけど、「里山は見えない資本なんだ」「お金に換算できない大切なものなんだ」ということを、これからも言って歩こうと思っています。

確かに田舎では、農家ではなくても老後の趣味で畑仕事をしている人も多く、私の両親もまさにそのようなタイプです。それも田畑があったり、そういうことに使える土地があるからこそ可能なわけで、里山自体が資本であり、そこからの恩恵を受けて、今の自分自身も生活をしている部分があります。

田舎暮らしのメリット

私はまだこの本を読んでいないのですが、丁度、Gunosyが選んだ記事の中にこの本の書評があり、それがわかりやすく田舎暮らしのメリットがまとまったものでした(最近のGunosy、キュレーションの精度が以前よりかなり高い気がします)。

【書評】豊かな生活を求めた結果にゃんぱすー / “里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く” – 本しゃぶり
誰もが必要とされ …

いくつか特徴的なものを上げてみると、

  1. 里山から燃料と食料が調達できる
  2. 工夫次第で金の流出を減らし、無料で物を手に入れることができたり、物物々交換ができる
  3. 田舎は人が少ないので、誰もが必要とされ承認欲求が満たされる

実際に住んでみて、1と2は実際に体感していることになります。そこまで山奥に住んでいるわけでもありませんが、冬は山にイノシシが出るので散歩に出掛けて猟師に出会った父が、「イノシシの肉いりますか?」と声をかけられていましたし、今の季節だと土手でわらびなどの山菜や、よもぎなども採れます。

このように、無料で里山から採れるものもあれば、隣で畑をしているおじさんは、しょっちゅう野菜が採れたと持って来てくれますし、逆にうちの畑で多く採れたものをあげて、物々交換をすることも多くあります。それに採れたままではなく調理したり、加工したものを頂くこともあります。最近は先程書いたように山菜が取れるので、山菜おこわと、山菜入りのちらし寿司を連日で頂きました。

それに、うちでは使っていませんが、冬に訪れた友達が経営している姫路の古民家では火鉢を使っていたりと、燃料も里山から調達出来ます。

趣味で農業をしていても、なかなか自分たちの分だけを上手く作ることは出来ません。大抵の場合は多く出来ますし、田舎は過疎化で人口は少ないので、このように頂き物や物々交換の機会が増えるわけです。

里山資本主義パラサイト

問題は3の「田舎は人が少ないので、誰もが必要とされ承認欲求が満たされる」です。これは田舎のコミュニティの中に、上手く入って行ければの話になりますし、実は1、2のメリットもそのコミュニティに入っていなければ、なかなか享受できるものではありません。

正直、自分の場合は、大学から東京に出て30過ぎの今まで里帰りも数えるほどしかしていませんから、このコミュニティには入っていません。里山資本主義コミュニティに入っているのは、両親であり、そこからの恩恵を受けているだけなので、言うなれば里山資本主義にパラサイトしている状態と言えるかもしれません。

元々住んでいた人でさえこうなのだから、完全に他所から来た人がこのコミュニティに入るのには、かなり行動力とコミュニケーション力が必要になります。前にこのブログでも、「「コンテンツイエローページ松山」のイベントに参加して感じた地域に根ざしたブランディングを行うということ」という記事で東京から高知の山奥に移住して、自分も米作りをしながら地域のお米のブランディングをしている方のお話を紹介しましたが、村の人たちと一緒になって農作業をしたり、道を作ったりと運命共同体だと語っていました。

そこまでする覚悟がなければ、里山資本主義のコミュニティに入って生活をするのは難しいかもしれませんし、そのコミュニティに入れなければ田舎暮らしのメリットは半減してしまうかもしれません。

ちょうど良い田舎でないと成立しない

もう1つの問題が、田舎であれば里山資本主義コミュニティがあるかというと、そういうわけでもないということです。

うちの実家もそうですが、小さい頃にあった田畑はどんどん埋め立てられ、大きなスーパーやユニクロやしまむら、映画館とファミレスなどが連なるロードサイド化が進んでいます。まだまだ田畑はありますが、地域として農業に力を入れているわけでもありませんし、特に産業があるわけでもないので、そういう田舎に住んでしまうと本当に仕事がありません。

愛媛の有効求人倍率と私がフリーランスを選んだわけ」でも書いたようにまわりを見るとコンビニのバイトですら近所には空きが無く、隣町までわざわざ出勤しているのが実態です。これから更に田畑は減って、農業をする人たちもいなくなるでしょう。

上手くブランディングされた里山か、本当に山奥でも本気で農業をする覚悟などがないと、場所選びが失敗すると田舎暮らしは大変なものになりそうです。

今回は田舎にUターンした立場から里山資本主義を見てみましたが、自分自身も田舎を活かした上手いポジショニングを考えていく必要があると感じました。実際にメリットが活かせれば、里山からの恩恵は多くあるので、移住を検討されている方は、のんびり過ごしたいというだけでなく、そのあたりも含めて考えてみると良いかもしれません。